筆者プロフィール

西川 淳 Jun Nishikawa
1965年式
生産地:日本国 奈良県
型式:unknown

京都大学工学部精密機械学科卒業。自動車エンジニアを目指すべく、大学では機械工学を学ぶが何を間違ったか(株)リクルート入社。カーセンサーの編集に携わる。カーセンサー関東版副編集長を経て、現在カーセンサー編集アドバイザーを務める。フリーランスのライターとしても活動中。ほぼすべての新型車試乗をこなす。


西川淳の「試乗会でこんにちは!」

M・ベンツSL&AMGモデルビッグマイナーチェンジ

Posted at Thu Jun 19 19:36:32 2008

よりアグレッシブな顔つきで新鮮味を取り戻した

デビューから早6年。その魅力のほどはいまだ健在だが、ここ数年の高性能車ブームも相まって、スペシャリティカーとしての鮮度にはさすがに陰りがみえてきた。それでビッグマイナーチェンジがSLに施されたのだろう。オフィシャル写真を初めてみたとき、思わずこう叫んでいた。「今のうちに、丸眼を買った方がいいかも!」。

写真でみる新しい顔付きは、かなりアメリカ車ライク(例えば最近のキャデラックテイストの影響など)に見えたし、その大掛かりな変更がいかにも取って付けたような感じで全体のデザインバランス( 現行型SLのスタイリングは歴史に残るスポーツカーデザインだと思う)を崩しているようにも思えたものだった。でも実際のところ、SLが以前よりワイド&ローにみえて格好いい。初代SLのモチーフがそこかしこに散見されるのも、クルマ好きにはたまらない。グリルやフードバルジ、サイドエアベントが効いている。

われわれに供されたのはSL350、SL550、SL600という所謂ノーマルラインナップ。もう1台、SL280という廉価グレードが今回のマイチェンで追加されたが、日本への導入予定は今のところない。SL550とSL600のパワートレインはキャリーオーバー。まずはSL600でスタートした。相変わらず豪勢な乗り味だ。決してスポーツカーではない。どでかいクッションに身を任せたかのような(決してふわふわではないが)、意のままに動くクルーザーに乗っているかのような、そんな気分だ。

ひとたびアクセルペダルを乱暴に踏み込めば、太いタイヤがすぐに悲鳴をあげてお尻が豪快に触れる。6LV12を2個のタービンでスーパーチャージしているのだから、そのパワフルさは伊達じゃない。ABCもさらに進化している。さすがに鼻先が重いが、だらしなく乱れるということがない。圧倒的なパワー。5速ATで十分。

今回のマイナーチェンジにおける技術的な注目点をいくつか挙げておこう。SL350用のニューV6エンジン、SLK以来のエアスカーフ、そしてダイレクトステアシステム。これまでSLクラスの6気筒モデルといえば、ノーズが軽く走りのバランスはすこぶる良かったが、いかんせんパワー不足の感が否めなかった。最新型は違う。高回転型の新3.5LV6を積むことでパワー&トルクが大幅にアップした。と同時に、ブリップ機能付き7Gトロニックを組み合わせることで燃費性能を引き上げることにも成功している。オープンにしてワインディングへと飛び出した。即座に、これは買いだ!と知る。ハンドリングバランスの良さはそのままに、胸をすくパワーフィールを得た。ひらりひらりとワインディングを駆けぬける。ブリッピングつきのシフトダウンも気持ちいい。スポーツカーとしても楽しめる6発SLクラスがようやく誕生だ。そういえば、SLクラスのオリジンは6気筒である。

2日目はいよいよSL63とSL65という両頂上オープンカー、キング・オブ・キングスの乗り比べである。まずはSL63AMGから。ようやくSLにも63ユニットが積まれた。6.2LV8自然吸気エンジンは、AMGメルセデス社が初めてブロックから自社で開発したエンジンである(これまではあくまでもメルセデスユニットの改造版であった)。フラットトルクで高回転型。スーパーチャージャー55ユニットほどの判り易い爆発力はないが、非常にマニアックなエンジンフィールをみせる。ボクは好きだ。

新型SL63にはもう1つ、ニュースがある。ついにメルセデスにも2ペダルロボタイズドミッションが積まれた。その名もAMGスピードシフトMCT(マルチクラッチテクノロジー)。名前をみてツインクラッチの類だと報じたニュースもあったが、実はシングルクラッチのシステム。7Gトロニックのギアボックスをそのまま使い、トルコン部分に多板湿式クラッチをすえる。これを油圧で精密にコントロールすることで、トルコン並の扱いやすさと、クラッチ付きならではのダイレクトな変速を両立させた。

半信半疑で乗ってみると4つある変速モード(C、S、S+、M)のうち、オートマチックのC(コンフォート)を選んでいるかぎり、不快なショックがほとんどない。シフトアップ時や微速域でもほとんど違和感がない。その分、変速そのものはマイルド。ひとたびS(スポーツ)モード、もしくはS+モードを選べば、オートマチックでも相当にスポーティな走りが楽しめる。3段落ちのシフトダウンも可能。その一体感たるや尋常じゃない。これはもう、リアルスポーツカーの領域だ。ちなみにローンチコントロールも備わっている。

最後のクルマ、SL65AMGを試す。パワートレインはこれまでと同じ。ABCの制御など、マイナーな変更はされているはず。63に負けてはならじ、とぶっ飛ばす。さすがにオーバー600ps&1000Nmの迫力は、心臓が口から飛び出すんじゃないかと思うほどに爆発的なもの。容易には操れないパワーをテクノロジーで抑え込む。その技術力証明のために、このクルマが存在するかのようだ。とにかく、すさまじい。それでいて、快適でもある。SLRマクラーレンじゃなくてもいいんじゃないか。

もっともこれだって3千万円級だと言うが。

     

Photo Collection

写真:顔つきを大胆に変えて投入

顔つきを大胆に変えて投入

丸目のヘッドランプを捨て、よりアグレッシブなフェイスマスクに変更された。フロントフェンダーに装着される「V12」はSL600の専用エンブレム。さりげなくアピールしている

写真:フロントに比べて大人しい?

フロントに比べて大人しい?

リアバンパー下には整流を考慮したデザイン変更が加えられたほか、マフラーエンドのデザインも違う。リアから見ただけでは、さほど大きな変更を感じないかもしれない

写真:日本では受注の4割がAMGモデルだとか

日本では受注の4割がAMGモデルだとか

6.2L V8エンジンを搭載するSL63。サイドエアベント上には「6.3」、SL65には「V12」というエンブレムが装着される。アルミホイールから見える大型ブレーキが頼もしい 

写真:リアから見た感じはあまり変更なし

リアから見た感じはあまり変更なし

ノーマルのSL同様、リアから見た感じでは大きく変わった印象は少ない。今後、SLの中古車相場がどのような影響を受けるのか気になるところ。SL55が意外に安くなりつつあるし

写真:真冬でも温かくオープンを楽しめる

真冬でも温かくオープンを楽しめる

SLKから導入されている「エアスカーフ」。ヘッドレスト裏側にモニターのような黒い部分があるが、それが送風ファンのダクト部分。真冬でも温かくオープン走行できる